広大な砂漠の中心に作られた人工のオアシスの中にあり、そこに行くまでの移動手段を所持している人間のみが辿り着くことができる、超富裕層のための巨大カジノ施設。それが、カジノ「エンペラーズガーデン」。
ここではバカラやトランプ、ルーレットやスロットなどのゲームを、カジノにたどり着いた人間であれば誰でも楽しむことができる。常設されているゲームだけを見れば、カジノを楽しむ習慣のない人間でも知っているような一般的なラインナップだ。
ではなぜ、世界中の富豪がわざわざこの「陸の孤島」に足しげく訪れるのか。 その疑問の答えを辿っていくと、この施設唯一無二のゲームの存在を知ることとなる。 そのゲームこそ、このカジノが辺境の地にありながらもここまで巨大な施設に成り得た理由だ。
『グローリーチェス』。
それは、このカジノがVIPとして認めた富豪のみエントリーすることを許されるゲーム。 カジノ中央に位置するコロシアムで行われるそのゲームは、VIPが自ら用意したチェスの駒と、カジノ側が用意したチェスの駒を戦わせる。VIPはその用意した駒に自身の誇りを汚すことのない額の金を賭け、勝てばカジノ側からその倍額が支払われる。負ければその額がカジノ側にプールされる、というもの。そしてどちらが勝つのかをVIP以外の富豪が賭けの対象とし、その戦いの様子をショーとして楽しむのだ。 チェスと名はついているが、チェスのルールに則ることはほぼなく、その内容は駒同士の生死を賭けた命のやり取り。勝利の条件は「キングを倒す」ことのみだ。
VIPが用意する駒は元軍人や暗殺者、テロ組織などの手練れたち。 そしてカジノ側が用意する駒は、カジノで働くディーラーたちである。 富豪たちにとって、カジノにとって、所詮駒は駒でしかない。プライドを賭けた駒の盤上での攻防に手に汗を握ったとしても、壊れた駒の行方など誰も気にかけることはない。
そして、その駒が再び陽の光を浴びることはないと言われている。
これは、カジノ「エンペラーズガーデン」に従事するディーラーたちの、代り映え無いありふれた日常の光景である。
ブラックジャックのテーブルで富豪たちがゲームを楽しんでいる。 犬獣人のディーラーが、手際よく、品のある手捌きでカードやコインを捌く。
ゲームが一区切りついたその時、店内のBGMが壮大なファンファーレに変わった。 それは、このカジノ最大のゲーム「グローリーチェス」が開始する合図。
店内の至る所に映し出されているモニターに煌びやかな文字が並ぶ。そしてその下には、左目に三本線の傷のある狼獣人、鼻の頭に一文字の傷を持つ白熊獣人、そして傷により左眉が分断された犬獣人、3人のディーラーが映し出されている。センターに映る犬獣人の頭の上にはキングの証である王冠が表示されていた。